染めない生活

52歳で毛染めを止めました。

それでも生きて行こうと思わされる「さきちゃんたちの夜」


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久しぶりに吉本ばななの本を読みました。

さきちゃんたちの夜」(新潮文庫)です。

同じ「さきちゃん」という名前だけど、違った年齢や境遇でそれぞれの人生を生きている女性を描いた5つの短編集です。

 

この前に読んだ「自分を愛すると夢は叶う」の印象があったせいか、ちょっと不思議な力を持った主人公たちが、作者と重なって見えました。

 

somenai.hatenablog.com

 

「鬼っこ」

 

中でも好きなのが「鬼っこ」です。

あとがきに、作者の言いたいことが一番つまった大好きな小説、とあるのを見て嬉しく感じました。

 

紗季は、親族とも縁を切ってたった一人で亡くなったおばさんの家のようすを見に、宮崎へ行きます。

 

おばさんの家がいいのです。

小さくて古い平屋は二部屋とキッチンだけ。

庭に面した縁側付きの部屋がアトリエになっていて、庭先には小さな窯と畑。

オーディオと少しのCD、数冊の本。本の一番上はエドワード・ゴーリーのインタビュー集。

 

家は、おばさんの作った子鬼であふれていました。

おばさんは、裏に住んでいる黒木さんを助けるために、庭の奥の古井戸を封じるために、これらの子鬼を作ったのでした。

 

おばさんは若い頃NYに行ってアートの世界にいた人だったけれど、オノヨーコにも草間彌生にもなれなかった。

でも、できることを静かにやってから死のうと決心します。

何かもっと大きなものが、偉大なものが、きっと私の命を見ていてくれるはずだと思って。

 

服もたった6枚しかなくしかもみんなボロボロで、靴下はゼロ、パンツが3枚しかなかったおばさん。

これだけを読めば、誰とも付き合いのない、貧しい年取った女ということになるけれど、余計なものはすべて取っ払って、ただひたすら自分のやるべきことだけを一心に行ったおばさんの生き様には憧れさえ感じます。

 

オノヨーコや草間彌生のようには世間に知られた仕事はしなかったけれど、おばさんも間違いなく天職を知った人だったのです。

 

さきちゃんたちの夜」
 

こちらの崎(さき)は事あるごとに「面倒くさい」とぼやきます。

でも、口ではそう言いながら決して投げやりにはならない。

ブルトーザーのように粘り強く力強く毎日を乗り越えていく。

面倒の海を意外な方法で乗り越えながら、一見超平凡に、時に大胆に。

 

双子の兄を亡くしたことも、絵本作家の秘書という仕事では食べていけそうにもないくらいの給料しかもらっていないことも、さらに絵本作家が80歳で近い将来失業しそうなことも、それはそれとして明るく生きていく。

自分と姪と母親の三人でやるカフェの話なんかしながら。

 

どの短編も、読んだ後で胸がぽっと明るくなるような、柔らかく励ましてもらえるお話でした。